カルネアデスの庵

健全な好青年の

10/12

取り留めのない1日だった。

私には上司がいるが、そのうちの直属と言える男が本当に笑えない。言動の一つ一つが人の神経を逆撫でするようで、心から不快に思っている。

鬱陶しい小バエのような男である。

 

何も考えず一日を過ごし、家に戻る。

 

もうすぐ資格試験だと言うのに、書を読む時間もすぐ終わった。失恋してからというもの、何にもモチベーションを抱けなくなった事に起因するのだろうか。

 

 

毎日、見る夢に必ず何処かに彼女は出て来る。

私もそれが夢だと気付かずに過ごす。

夢で何度でも会い、何度でも歓喜し、何度でも幸せを享受した。

だが夜が開けるとそこにアイツは居ない。

私が第三者なら当然のように嘲り、謗るだろう。

未練だと。

気色の悪い思いだと。

私は夢に囚われている。

悪夢より惨たらしい、手に入る事の無い幸福の夢だ。

 

いつになったら、この呪いは解けるのだろう。

いつになれば、長い夢から覚めるのだろう。

 

このくだらない独白に意味など無い。

見る者も私しかいない。

故にこそ、私は私のこの恥ずかしい思いを文字にし、戒めとすることで私を保たなければならない。

 

あの時、選択さえ間違えなければ。

あの時、もっと注意していれば。

もっと、私がしっかりしていれば。

 

掘り出すほどに脳内を巡る、後悔と自責。

昔日の現実は夢となり、現在を侵食する。

 

それでも私は、折れない。

例えどれだけ辛かろうと、己を律する。

彼女が戻って来る事は、恐らく無いだろう。

連絡も途絶え、最後の会話では敬語まで使われていた。嘗ては好きで、大事で、同じだったのに。

 

 

それでも、私は足掻く。

 

 

彼女は生きている。

私もまだ生きている。

チャンスが無いという事はありえない。

たとえそれがどれだけ苦しい道で、可能性が低いとしても。

彼女が再び認めてくれるようになれるよう、可能な限り足掻く。

己を律し、再燃する。

 

恋愛はしない、等と嘯いたものの、

私は未だに彼女のことを忘れたくない。

どれだけ苦しい道のりとなろうと、一縷の希望の糸はまだ途切れず、私の前に垂れ下がっている。

どれだけ長い道のりか、想像もつかない。

それでも私はこの残火を絶やさず、繋いでいこうと思う。

別の人を見つけて幸せになった、となればそれでもいいのだ。

 

例え私を捨てた女だとしても、私は彼女に幸せになって欲しいと心から願っている。

どうか、彼女の道行に祝福のあらんことを。